2024年6月

来年4月から自己都合退職者の基本手当の給付制限の扱いが変わります

 

◆改正雇用保険法が成立

 5月10日、改正雇用保険法が成立しました。改正項目は、育児休業に関する給付新設、教育訓練やリ・スキリング支援の充実や雇用保険の適用拡大など、多岐にわたります。(育児休業に関する給付新設を含む子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案は参議院で審議中)。

 

◆自己都合退職者の基本手当の給付制限はどう変わる?

令和7年4月1日から、法改正により、要件を満たす公共職業訓練等を受ける受給資格者は給付制限なく基本手当を受給できるようになります。

また通達の改正により、正当な理由のない自己都合離職者への基本手当の給付制限期間が1カ月に短縮されます。ただし、短期で入退社を繰り返すのを防止するため、5年間で3回以上正当な理由のない自己都合退職を行った人の給付制限期間は3カ月とされます。

 

◆育児休業に関する新給付

 令和7年4月1日から、育児休業に関する2つの給付が創設されます。

出生後休業支援給付は、子の出生後間もない期間に両親がともに14日以上育児休業を取得した場合、休業開始前の賃金の13%が最大28日分、支給されます。

育児時短就業給付は、2歳未満の子の養育のため所定労働時間を短縮して短時間勤務を行う場合の賃金減額分の一部を補助するもので、短時間勤務を開始する前の賃金の約10%が支給されます。

 

◆雇用保険の適用拡大

 令和10年10月1日から、「31日以上継続して雇用されることが見込まれ」かつ「1週間の所定労働時間が10時間以上」の労働者が雇用保険に加入することとなります。被保険者資格取得手続を行う機会が大幅に増えるほか、基本手当の受給や離職票の作成にも影響が及ぶため、今後の情報を注意深く確認する必要があります。

【厚生労働省「雇用保険法等の一部を改正する法律案(令和6年2月9日提出)」】

https://www.mhlw.go.jp/stf/topics/bukyoku/soumu/houritu/213.html

【同省「労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会報告」】

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000107715_00006.html

 

中小企業の賃上げ状況と企業規模による格差拡大
~帝国データバンクのアンケート調査結果から
 
◆賃上げの求めと中小企業の状況

2024年の春闘では、日本労働組合総連合会(連合)が4月4日に発表した集計結果によれば、全体の賃上げ率は平均で5.24%と33年ぶりの高水準となりました。

人手不足や物価高騰を背景に賃上げが求められる状況が続いていますが、大企業が積極的に賃上げ策を進める一方、中小企業では賃上げに対する厳しい状況が見えてきます。

 

◆「小規模企業」の賃上げ実施割合は全体を10ポイント以上下回る

帝国データバンクが2024年4月18日に公表した調査によれば、2024年度の賃上げ実施割合は77.0%と高水準ですが、規模別に「賃上げ」する/した企業の割合をみると、「大企業」は77.7%、「中小企業」は 77.0%とほぼ同水準となった一方で、「小規模企業」は65.2%と全体(77.0%)を11.8ポイント下回る結果となっています。

 

◆新卒社員の採用 「大企業」76.2%、「小規模企業」23.7%

同調査では、2024 年度入社における新卒社員の採用状況についても尋ねており、「採用あり」は45.3%、「採用なし」は53.1%となっています。これを規模別に「採用あり」の割合をみると、「大企業」は76.2%と全体を約30ポイント上回った一方で、「中小企業」は40.9%、「小規模企業」は23.7%となっており、企業規模別の差が大きいことがわかります。

 

◆広がる格差と人手不足への対応

 同調査では、中小企業から「大企業との賃上げ格差が拡大し、人材の確保が一段と困難になっている」との声も聞かれたことが示されています。

資金的余裕がないため賃上げしたくてもできないという中小企業は多い状況下で、賃上げが進む大企業との賃金格差、またそれによる人手不足はますます深刻化していくものと思われます。生産性を高める様々な施策とともに、他社と差別化した人材確保の諸施策もあわせて検討していきたいところです。

【帝国データバンク「緊急調査 2024年度賃上げ実績と初任給の実態アンケート】

https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p240408.pdf

 

69%が「転勤は退職のキッカケになる」
~エン・ジャパンのアンケート調査から

 

エン・ジャパン株式会社が運営する社員・バイト求人サイト『エンゲージ』上で、ユーザーを対象に「転勤」についてアンケートを実施し、1,039名から回答を得た結果が下記のとおり公表されました。

 

◆69%が「転勤は退職のキッカケになる」と回答。年代が低いほど、転勤への抵抗感が大きくなる傾向に

「もしあなたに転勤の辞令が出た場合、退職を考えるキッカケになりますか?」と問うと、69%が「なる」(なる:44%、ややなる:25%)と回答しました。年代別でみると、20代78%、30代75%、40代以上の64%が「なる」「ややなる」と回答しており、年代が低いほど転勤への抵抗感が大きいことが分かりました。また男女別では、男性62%、女性75%が「なる」「ややなる」と回答し、女性のほうが抵抗感が大きい結果になりました。

 

◆転勤の辞令を受けたことがある人のうち、3割が転勤を理由とした退職を経験

転勤の辞令を受けたことがある人に「転勤を理由に退職したことがありますか?」と問うと、31%が「退職したことがある」と回答しました。

 

◆半数が転勤を承諾意向。承諾条件のトップは「家賃補助や手当が出る」。転勤を拒否する理由、トップは「配偶者の転居が難しい」

「もしあなたに転勤の辞令が出た場合、どう対処しますか?」と問うと、50%が「承諾する」(「承諾する」8%、「条件付きで承諾する」42%)と回答しました。「条件付きで承諾する」と回答した人に承諾条件を問うと、トップは「家賃補助や手当が出る」(72%)でした。「条件に関係なく拒否する」と回答した人に理由を問うと、トップは「配偶者の転居が難しいから」(40%)でした。

【エン・ジャパン『エンゲージ』ユーザーアンケート~「転勤」に関する意識調査(2024)】

https://corp.en-japan.com/newsrelease/2024/36874.html

 

中小企業、労務費増加分の価格転嫁は十分に進まず足踏み
~日本商工会議所の調査より

 

日本商工会議所は4月30日、「商工会議所LOBO(早期景気観測)」の4月調査結果を発表しました。全国の会員企業2,472社を対象に調査したもので、2024年4月12日~18日に実施し、2,033社から回答を得ています。今月の付帯調査「コスト増加分の価格転嫁の動向」によると、持続的な賃上げに向けて課題となっている労務費の増加分の転嫁は、まったくできていない企業が25.6%に上っています。

原材料費やエネルギー費を含めたコスト全体の価格転嫁については、50.9%の中小企業が上昇分の4割以上を転嫁できていますが、2023年10月の前回調査より4.4ポイント低下しています。2023年11月には公正取引委員会が、中小企業の賃上げ分の価格転嫁を促す指針を公表しましたが、転嫁が十分に行われていない状況です。

 

◆価格協議が実施できた企業は7割超、4割以上の価格転嫁ができた企業も5割超

 発注側企業との「価格協議の動向」については、「協議を申し込み、話し合いに応じてもらえた」66.0%、「コスト上昇分の反映の協議を申し込まれた」7.7%で、合計すると「協議できている」企業は73.7%と、2023年10月調査から0.7ポイント減少しているものの、7割超と高水準であり、価格協議は浸透しているといえます。

一方、コスト増加分の「価格転嫁の動向」については、50.9%の企業が「4割以上の価格転嫁」が実施できていますが、2023年10月調査から4.4ポイント減少しています。

 

◆労務費増加分では、価格転嫁がまったくできていない企業が25.6%

コスト増加分のうち労務費増加分の「価格転嫁の動向」については、「4割以上の価格転嫁」が実施できた企業は33.9%で、2023年10月調査から0.8ポイント減少とほぼ横ばいとなっています。

また、まったく価格転嫁できていない企業は25.6%あり、価格転嫁の進捗は足踏みしている実態が懸念されます。

【日本商工会議所「商工会議所LOBO(早期景気観測)2024年調査結果」】

https://cci-lobo.jcci.or.jp/wp-content/uploads/2024/04/LOBO202404.pdf