2024年8月

「人手不足倒産」過去最多ペースで増加

帝国データバンクが、2024年上半期における「人手不足倒産」の件数を公表しました。2023年上半期の110件を大きく上回る182件もの「人手不足倒産」が発生しており、過去最多ペースで推移しています。
※「人手不足倒産」とは、法的整理(倒産)となった企業のうち、従業員の離職や採用難等により人手を確保できなかったことが要因となった倒産のことをいいます。

◆倒産件数の8割が「従業員10人未満」

2024年上半期における「人手不足倒産」182件のうち、「従業員10人未満」の小規模事業者の割合は8割を占めています。厚生労働省の労働力調査(2024年5月)によれば、就業者数は22カ月連続で増加しており、人手不足感は落ち着きつつあるものの、1人の退職者が与えるダメージが大きい小規模事業者では、依然として「人手不足倒産」に追い込まれる可能性は高いと予測されています。

◆「2024年問題」の影響も

物流業や建設業においては、働き方改革関連法による時間外労働の上限規制が2024 年4月から適用されたことによる人手不足(いわゆる「2024年問題」)の影響があり、倒産件数は、建設業で53件、物流業で27件となっており、どちらも年上半期としては過去最多でした。特に物流業では、時間外労働上限規制や改善基準告示が改正されたことにより、2023年上半期の15件と比較してほぼ倍増となっています。

1人が退職すると、残された社員でその穴を埋めることとなり、負荷に耐えきれずドミノ倒し型に退職が連鎖するケースも多いようです。採用の強化や、労働条件の改善による離職防止など、自社にあった人手不足対策を検討しましょう。

【帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2024年上半期)」】
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p240703.pdf

 

令和6年分年末調整のご準備はお早めに

 

◆定額減税対応は年末調整でも発生

 6月1日以降に支払う給与等から定額減税が実施されましたが、令和6年分年末調整においても対応は発生します。

例えば、令和6年6月2日以後に採用した従業員は月次減税を行っていないので、年末調整で定額減税額の控除(年調減税)を行うほか、令和6年7月以降に子どもが生まれ扶養親族の人数が増えた場合、定額減税額の差額は年末調整または確定申告により精算するなどがあるためです。

 

◆「給与所得者の保険料控除申告書」が変更に

 令和5年度税制改正により保険料控除申告書の記載事項に改正があり、令和6年10月1日以後提出分、つまり令和6年分年末調整から適用されます。

保険金等の受取人と申告者との続柄を記載する欄が削除され、様式に変更があります。

 

◆「令和6年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書」に定額減税に係る記載欄が追加

 月次減税額の計算に含めた同一生計配偶者がその後就職等し、令和6年分の合計所得金額が48万円超となった場合、年調減税額の計算に含めないため、定額減税の対象となるかを確認するための欄等が追加されています。

 

◆改正対応は令和7年も続く

 さらに、令和5年度税制改正により、令和7年1月以降、扶養控除等申告書について「簡易な申告書」が導入されます。

 

 このように、令和6年分年末調整から令和7年1月の源泉徴収事務においては、様々な改正に対応しながら正確に実務を行うことが求められます。事前の周知や、早めの書類配付および回収などが望ましいと言えるでしょう。

 

【国税庁「変更を予定している年末調整関係書類(事前の情報提供)」】

https://www.nta.go.jp/users/gensen/nencho_shorui/index.htm

 

【同庁「令和6年分所得税の定額減税Q&A(概要・源泉所得税関係【令和6年5月改訂版】)」】

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/0024001-021.pdf


 

合理的配慮で実際に問題になるのはどんな点?

 

◆合理的配慮とは

合理的配慮とは、障害のある社員が職場で平等に働けるよう、個々の状況に応じて行う調整や支援のことです。具体的には、業務内容の調整、勤務時間の柔軟化、物理的環境の改善、コミュニケーション手段の提供などが挙げられます。

雇用分野における障害者の差別禁止・合理的配慮の提供義務として、すべての企業に取組みが課されています。これらは障害者と会社側が話し合いを重ね、双方にとって過度な負担とならない範囲で実施されます。

 

ハードよりもソフトが問題?

では実際に、どのような合理的配慮が課題となっているのでしょうか? 厚生労働省がまとめた、都道府県労働局やハローワークへ持ち込まれた合理的配慮に関する相談の内訳を相談の多かった順にみると、次のようになっています。

1 上司・同僚の障害理解に関するもの 26.1%

2 相談体制の整備、コミュニケーションに関するもの 18.0%

3 業務内容・業務量に関するもの 13.9%

4 作業負担や移動負担に関するもの 11.8%

5 就業場所・職場環境に関するもの 11.0%

6 業務指示・作業手順に関するもの 9.8%

このようにみると、作業場所の改修などのハードより、障害への理解やコミュニケーションといったソフト面での対応が、より課題となっているようです。対話が重要ですね。

 

win-winな職場を目指して

合理的配慮の提供義務が履行されていない場合は、事業主に対し、行政から助言、指導または勧告が行われることがあります。

合理的配慮は、障害者の能力を最大限に発揮できる環境を整えることが目的です。会社の力になってもらうためには、障害のある社員との行き違いをなくし、win-winな職場を目指したいですね。

 

【厚生労働省「雇用の分野における障害者の差別禁止・合理的配慮の提供義務に係る相談等実績(令和5年度)」】

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_41002.html

 

中小企業における労務費等の価格転嫁の現状~中小企業庁「価格交渉促進月間(2024年3月)のフォローアップ調査結果」より

 

原材料費やエネルギー価格、労務費などが上昇する中、中小企業庁では、2021年9月より毎年3月と9月を「価格交渉促進月間」と設定し、受注企業が、発注企業にどの程度価格交渉・価格転嫁できたかを把握するための調査を実施しています。

6月21日に公表された2024年3月のフォローアップ調査の結果では、労務費に関する価格交渉の状況や、正当な理由のない原価低減要請等による減額についても初めて調査が行われました。

 

◆価格交渉の状況

直近6カ月間における価格交渉の状況は、「価格交渉が行われた」割合は59.4%で、発注企業から交渉の申し入れがあり、価格交渉が行われた割合が増加するなど、価格交渉できる雰囲気がさらに醸成されつつある傾向です。

一方で、「価格交渉を希望したが、交渉が行われなかった」割合は10.3%で前回より増加しており、引き続き労務費指針の徹底等による価格交渉の機運醸成が必要です。

 

◆価格転嫁の状況

コスト全体の価格転嫁率は46.1%で、昨年9月より微増しています。受注企業のうち、コスト増加分を全額価格転嫁できた割合は増加し、一部でも価格転嫁できた割合も増加しました。しかし、一方で1~3割しか価格転嫁できなかった割合も増加。まったく価格転嫁できなかった・減額された企業も約2割、「転嫁できた企業」と「できない企業」で二極化の兆しもあり、転嫁対策の徹底が重要です。

 

◆「労務費についての価格交渉」と「正当な理由のない原価低減要請等による減額」

今回、①「労務費について、価格交渉できたか」と、②「正当な理由のない原価低減要請等により価格転嫁できず、結果、代金が減額となったケース」を初めて調査。①については、価格交渉が行われた企業のうち約7割が、労務費についても価格交渉が実施されたと回答しました。②の「正当な理由のない原価低減要請等によって価格転嫁できず、減額されたケース」は、全体の約1%存在しました。

下請法違反が疑われる事例や、「原価低減要請」に係る振興基準上不適切と思われる事例も存在しており、中小企業庁ではこれらの情報も端緒として、下請法の執行を強化していくとしています。

 

【中小企業庁「価格交渉促進月間(2024年3月)フォローアップ調査結果」】

https://www.meti.go.jp/press/2024/06/20240621002/20240621002-ar.pdf