2024年9月

最低賃金をめぐる動向等

 

◆「最低賃金」制度の概要

 最低賃金は、最低賃金法に基づき国が定めるもので、使用者は、労働者にその金額以上の賃金を支払わなければなりません。都道府県別に最低賃金が定められ、この地域別最低賃金以上の賃金を支払わない場合、罰則が科せられます。なお、最低賃金制度には例外があり、「最低賃金の減額の特例許可制度」において、身体や精神の障害によって一般の労働者より著しく労働能力が低いなどの特定の労働者について、使用者が都道府県労働局長の許可を受けることにより個別に最低賃金の減額の特例が認められます。また、例えばシルバーワーカーなどとの契約は、請負・委任契約に当たるため、最低賃金法ほか労働関係の法律は適用されません。

 

◆なお昨今の賃金事情と乖離

2024年度の最低賃金について、厚生労働省の中央最低賃金審議会は7月25日、目安額を全国平均で時給1,054円とする答申を行いました。引上額は50円となり、1,000円の大台に乗った2023年度の額を超え、4年連続で過去最大となりました。

この答申を参考として、各地方最低賃金審査会で調査審議のうえ、答申を行い、各都道府県労働局長によって地域別最低賃金額が決定されます。例えば、東京都の最低賃金については、8月5日に東京地方最低賃金審議会が東京労働局長に対し時給1,163円に改正することが適当であるとの答申を行いました。例年、10月上旬~中旬に各都道府県の地域別最低賃金が発効します。

なお、このように最低賃金は引き上げられますが、すでに社会的な人手不足等により、各業界におけるパートタイム労働者等の時給は上昇しているのが現状です。例えば、厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和6年6月分結果速報」によると、パートタイム労働者の時給は平均1,338円で、前年同月比4.9%増となっています。

 

各企業においては、今一度自社の賃金の確認を行いましょう。なお、給与制度や給与規程等を変更する際には手続き・届出が必要になります。ご検討の際には、弊所にご相談ください。

【厚生労働省「最低賃金に関する特設サイト」】

https://saiteichingin.mhlw.go.jp/

 

 

解雇等無効判決後、職場復帰する労働者はどのくらい?
~労働政策研究・研修機構の調査から

 

労働問題を専門とする日本労働弁護団、経営法曹会議ほか、労働問題に詳しい弁護士を対象に行われた調査の結果、次のようなことが明らかになったそうです。

 

◆解雇等無効判決後の復職割合

解雇・雇止め訴訟の判決において解雇等が無効とされた場合の復職割合は次のようになっています。

・復職した 37.4%(うち復職後継続就業 30.3%、復職後不本意退職 7.1%)

・復職せず 54.5%

・不明 8.1%

復職しなかった理由としては、復職後の人間関係に懸念があるとした人の割合が38.9%と最多でした。また、復職後に不本意退職となった労働者の退職理由では、「使用者からの嫌がらせ」(16.2%)が最多でした。

 

◆多くのケースで和解案拒絶

一方、判決で終局した事案で、判決までの過程で裁判所から示された和解案を拒絶したのは86.5%に上っており、その内訳は次のようになっています。

・労働者側が拒絶 45.0%

・使用者側が拒絶 21.3%

・労使双方が拒絶 33.8%

労働者側の拒絶理由は、「合意退職の和解案だったが、労働者が復職を希望」(34.7%)、「合意退職の和解案だったが、解決金額が低かった」(30.6%)、「合意退職の和解案だったが、解雇無効を確信」(22.3%)となっています。

また、使用者側の拒絶理由は、「合意退職の和解案だったが、使用者が金銭支払を希望せず」(19.4%)、「地位確認の和解案だったが、使用者が復職を希望せず」(15.3%)、「合意退職の和解案だったが、解決金額が高かった」(13.9%)となっています。

 

現在、厚生労働省の労働政策審議会では解雇無効時の金銭救済制度に関する議論が以前から行われていますが、少し停滞気味のようです。解雇・雇止めには金銭的な問題だけではないという一面もあり、なかなか結論は出ないようですが、今後の行方が気になるところですね。

【労働政策研究・研修機構「解雇等無効判決後における復職状況等に関する調査」】

https://www.jil.go.jp/institute/research/2024/244.html

 

賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和5年)より

 

◆監督指導結果のポイント

1 令和5年に全国の労働基準監督署で取り扱った賃金不払事案の件数、対象労働者数及び金額は以下のとおり。

(1) 件    数  21,349件(前年比818件増)

(2) 対象労働者数  181,903人(同2,260人増)

(3) 金    額  101億9,353万円(同19億2,963万円減)

2 労働基準監督署が取り扱った賃金不払事案(上記1)のうち、令和5年中に、労働基準監督署の指導により使用者が賃金を支払い、解決されたものの状況は以下のとおり。

(1) 件    数  20,845件(97.6%)

(2) 対象労働者数  174,809人(96.1%)

(3) 金    額  92億7,506万円(91.0%)

 

◆賃金不払いと監督指導の事例(業種:飲食業)

1 事案の概要

・労働時間は、勤怠システムにより管理を行っているが、当該システムに搭載された端数処理機能を用いて、日ごとの始業・終業時刻のうち15分未満は切り捨て、休憩時間のうち15分未満は15分に切り上げる処理が行われていた。

・また、着用が義務付けられている制服への着替えの時間を、労働時間としていなかった。

2 労働基準監督署の指導

・労働時間を適正に把握するための具体的方策を検討・実施すること。

・過去に遡って、労働時間の状況について労働者に事実関係の聞き取りを行うなど、実態調査を行い、実際の支払額との差額の割増賃金の支払いが必要になる場合は、追加で支払うこと。

3 その後の事業場の対応

・労働者へのヒアリングを行って、正しい労働時間数を把握し、再計算の上、差額の割増賃金を支払った。

・勤怠システムに搭載された端数処理機能の設定を見直し、始業・終業時刻の切り捨て、休憩時間の切り上げ処理をやめ、1分単位で労働時間を管理することとした。

・制服への着替えの時間を、労働時間とすることとした。

【厚生労働省「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和5年)を公表します」】

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_41907.html

 

男性育休初の30%超え~「令和5年度雇用均等基本調査」より

 

厚生労働省は、「令和5年度雇用均等基本調査」の結果(従業員5人以上の3,495事業所から回答)を公表しました。この中から、男性の育児休業の取得状況についてご紹介します。

 

◆法改正により取得率が上昇

昨年度の男性の育児休業取得率(産後パパ育休を含む)は30.1%で、令和3年度より13ポイント増えて過去最高を更新しました(女性は、84.1%(令和3年度より3.9ポイント増))。同省は、取得率が30%に達した理由として、令和4年の育児介護休業法の改正により取得意向の確認が義務付けられたことや、中小企業に様々な政策を打ち出し、制度が周知されたことなどを挙げています。

育児休業の取得期間は、「1か月~3か月未満」が28.0%(令和3年度24.5%)と最も高く、「5日~2週間未満」が22.0%(同26.5%)、「2週間~1か月未満」が20.4%(同 13.2%)となっており、2週間以上取得する割合が上昇しています。

事業所の規模別では、「従業員500人以上」が34.2%で最も多く、100人以上の事業所では30%を超えているのに対し、「5~26人」の事業所は26.2%でした。

 

◆従業員300人以上の企業は取得率公表が義務化

政府は、男性の育児休業取得率を令和7(2025)年までに50%に上げることを目標に掲げています。取得率を向上させる施策として、来年4月からの育児介護休業法の改正により、従業員が300人超1,000人以下の企業にも取得率の公表が義務付けられるようになります。また、従業員数100人超の事業主に対して、行動計画策定時に育児休業の取得状況等に係る状況把握および数値目標の設定が新たに義務付けられるようになります。

【厚生労働省「令和5年度雇用均等基本調査」】

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-r05.html