消費増税先送りで今年度の社会保障はこう変わる!
◆消費税率引上げを前提とした主な社会保障充実策
政府が2015年度の社会保障充実策を決定し、当初は今年10月の消費税率10%引上げを前提に行う予定であった、「低所得者の年金への上乗せ給付」や「年金受給資格の短縮」等が1年半後(2017年4月)に先送りされることになりました。なお、「子ども・子育て新支援制度」等は当初の予定通り実施されます。
◆低所得者や年金受給者への影響は?
消費税率8%引上げ時に「簡素な給付措置」として導入した低所得者向けの「臨時福祉給付金」は、1年分として1万円から6,000円に減額したうえで継続されます。しかし、年金を受給する低所得者に対して給付金5,000円を上乗せする措置は先送りとなり、約500万人の高齢者に影響を及ぼすことになります。さらに、年金の受給資格を得るための保険料納付期間を25年から10年に短縮する制度も延期されることになりました。
◆育児支援は予定通り実施
一方、「子ども・子育て支援新制度」は、すでに入園の申込みが始まっているため予定通り4月より実施されます。この制度は、「質の高い幼児期の学校教育・保育の総合的な提供」の実現を目指し、待機児童解消ための保育園等の増設や、保育士不足を解消するために職員の増員や待遇を改善する制度です。2017年度までに待機児童をゼロにすることを目標にしています。
◆介護への影響は?
低所得者への介護保険料の軽減拡充についても消費税率10%引上げ時に実施する予定でしたが、2015年度は一部実施にとどめて、本格的な実施は2017年度からとなりました。その反面、事業者に支払う介護報酬は2.27%の引下げが決定し、9年ぶりのマイナス改定となりました。今後介護人口が増えていく中、介護報酬の引下げにより人材の確保や介護を必要とする人に対して十分なサービスが提供できるかが懸念されそうです。
労務・給与担当者が押さえておきたい
2015年上半期施行の主な改正事項
◆労働法関連
今年4月1日より、「雇入れ時・契約更新時の労働条件に関する説明義務化」や「正社員との差別的取扱いが禁止される労働者の範囲拡大」等を内容とする改正パート労働法が施行されます。また、6月1日より、重大な労働災害を繰り返す企業に改善計画を提出させるほか、その指示に従わない企業名公表等を内容とする改正労働安全衛生法が施行されます。なお、同改正によるストレスチェック制度導入は12月1日です。
◆労働保険関連
4月1日より、労災保険率が全54業種平均で4.8/1000から4.7/1000へと0.1/1000引下げとなります。なお、一人親方等の特別加入に係る第2種特別加入保険料率、海外勤務者の特別加入に係る第3種特別加入保険料率も改定されます。また、労務費率の改定、請負金額の取扱いの改正および労務費率の暫定措置の廃止も、同日施行されます。なお、雇用保険料率は据置きの方針で、一般13.5/1000、農林水産清酒製造15.5/1000、建設16.5/1000です。
◆助成金・奨励金関連
2月より、「中小企業両立支援助成金」に育休復帰支援プランが新設され、「育休復帰プランナー」による支援のもと「育休復帰プラン」を策定・導入し、対象労働者が育休を取得・職場復帰した場合に助成金が支給されることとなります。このほか、「キャリアアップ助成金」、「トライアル雇用奨励金」、「労働環境向上助成金」、「キャリア形成促進助成金」、「建設労働者確保育成助成金」等の改正も見込まれています。
◆社会保険関連
健康保険関連として、1月1日より、高額療養費制度が改正(70歳未満の所得区分が細分化) されています。年金保険関連として、昨年4月分から実施されている年金額の特例水準解消について、残る0.5%分の解消による改定が4月分より行われる予定です。なお、年金額は1月末に公表される全国消費者物価指数の動向により決定されます。
◆その他
4月1日より、法律の有効期限の10年間延長等を内容とする改正次世代育成支援推進法が施行されます。また、労働・社会保険関連の電子申請システムについて、従業員データの入力作業の省略が可能となる等、4月より利便性向上が図られる予定です。
調査結果にみる 転職者の離職理由・賃金の変化等
◆厚労省による調査
厚生労働省が平成26年上半期「雇用動向調査」(1~6月)の結果を発表しました。全国の主要産業における入職者、離職者に関する状況等を調査しています。
◆入職者数・離職者数は?
入職者数(常用労働者のうち事業所が新たに採用した者)は492万人(一般労働者292万人・パート労働者200万人)、離職者数は398万人(一般労働者239万人・パート労働者159万人)となりました。この結果、常用労働者数は、約95万人の増加となっています(事業所の新設や閉鎖等の影響を除く)。
入職率(年初の常用労働者数に対する入職者の割合)は10.7%(一般労働者8.5%、パート労働者17.0%、前年同期9.4%)、離職率(年初の常用労働者数に対する離職者数の割合)は8.6%(一般労働者7.0%、パート労働者13.5%、同8.9%)で、比較可能な平成16年以降で最も高くなりました。
◆転職入職者の状況について
次に、転職入職者(入職前1年間に就業経験のある者をいう)の雇用状況をみてみましょう。
転職入職率は、年齢階級別にみてみると、男性は20~24歳が最も高く、45~49歳にかけておおむね低下傾向となっていますが、50~64歳にかけて上昇しています。
女性の場合は、29歳以下の各年齢階級で10%を超え、30歳以上の各年階級では年齢が上がるとともにおおむね低下しています。
◆転職入職者が“前職を辞めた理由”のトップは?
男女とも、「その他の理由」以外で前職を辞めた理由として、「定年・契約期間の満了」(男性18.0%、女性14.1%)が最も高く、「労働時間等の労働条件が悪い」(男性9.6%、女性12.4%)が続いています。
上昇幅が一番大きかったのは、男女とも「その他の理由」以外では「仕事の内容に興味を持てず」でした(男性1.8ポイント増、女性2.1ポイント増)。
◆転職入職者の賃金はどう変わった?
前職の賃金に比べ、「増加」した割合は37.3%(前年同期33.0%)、うち「1割以上増加」した割合は25.4%(同23.1%)でした。反対に、「減少」した割合は32.2%(同33.0%)で、うち「1割以上減少」の割合は24.6%(同25.4%)となっています。
賃金が「変わらない」とした人の割合は29.4%(同32.6%)でした。
厚労省が示した平成27年からの長時間労働対策
◆「過重労働等撲滅チーム」の取組み
昨年9月、「長時間労働削減推進本部」が厚生労働省内に設置され、長時間労働対策が強化される方針が示されました。この推進本部の中の「過重労働等撲滅チーム」による施策として、平成27年1月から具体的な取組みが行われます。
◆1月からの主な取組み
(1)月100時間超の残業が行われている事業場等に対する監督指導の徹底「時間外労働時間数が1カ月100時間を超えていると考えられる事業場」や「長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場」を対象とした、労働基準監督署による監督指導(立入調査)が徹底されます。法違反を是正しない事業場については、送検も視野に入れて対応(送検した場合には企業名等を公表)するとのことです。
(2)インターネットによる情報監視
厚生労働省がインターネット上の求人情報等を監視・収集し、その情報を労働基準監督署による監督指導等に活用されます(平成27年度からの本格実施に向けて、平成27年1月から試行的に実施)。高収入を謳う求人、求人を繰り返し行うもの等の過重労働が疑われる求人事案に着目して行われるようです。
(3)メンタルヘルス対策の強化
メンタルヘルスの一層の向上を目指し、都道府県労働局において次の取組みを実施します。
・ストレスチェック制度の周知(改正労働安全衛生法により平成27年12月から施行)
・ストレスチェックおよび面接指導等を行う医師、保健師等に対する研修(平成27年度からの実施に向けて、平成27年1月から準備)
◆ハローワークへの求人の不受理
また上記とは別に、厚生労働省では、過酷な労働を強いるいわゆる「ブラック企業」からの新卒求人を、内容にかかわらずハローワークで受理しない制度を作ることを検討しているようです。今年も引き続き、長労働時間等には行政の指導も厳しいようですので、適切な労働時間管理に取り組んでいくことが必要ですね。