中小企業の人手不足対策と課題
人手不足が言われて久しいですが、企業にとっては、採用難や売上減少など、企業経営に及ぼす影響は決して小さくないと思われます。そのような中で、企業はどのような人手不足対策を行っているのか、「中小企業の人手不足に対する意識調査(2018年7月)」(商工中金)の結果からみてみます。
※商工中金取引先中小企業10,150社を対象に実施、有効回答数は4,764社。
◆他社はどのような人手不足対策を行っているのか?
人手不足対応として行っている対策としては、「従業員の能力向上」が46%と最多で、次いで、「職場環境の改善」(35.1%)、「賃上げ等の雇用条件の改善」(31.8%)、「高齢者の採用拡大」(29.7%)、「外注(アウトソーシング)の拡大」(27.5%)、「業務プロセスの効率化」(27.2%)、「定着率向上」(25%)、「機械設備導入による省力・省人化」(22.9%)、「従業員の兼任化」(18.4%)、「女性の採用拡大」(17.8%)、「定年延長・廃止」(13.7%)、「外国人の採用拡大」(11.8%)、「パート・非正規の正社員化」(10.1%)といった対策を行っています。
特に、業種別でみると、製造業で「機械設備導入による省力・省人化」(42.1%、非製造業では13.2%)や「外国人の採用拡大」(21.2%、非製造業では7.0%)が目立っています。
その他にも、「IT、IoTの活用による省力、省人化」や「販売単価の引上げ」、「過剰品質・過剰サービスの見直し」、「他社との提携(経営資源の共有等)」、「残業増加」、「業務の縮小・廃止」、「納期の変更」、「海外拠点の新設・拡大」、「他社の買収」といった対策を行っている企業もあります。
◆対策実施上の課題は?
人手不足対策を実施するうえでの課題としては、「対策を行える人材が不在」(25.2%)、「労働法規や規制」(22.5%)、「資金が不足」(12.5%)、「取引先との交渉が難航」(6.7%)、「対策の仕方が分からない」(5.1%)、「従業員との交渉が不調」(1.7%)、「相談相手がいない」(1.4%)などがあります。
業種別でみると、金属製品製造業では、「扶養や社会保険制度でのパートタイマーの年収制限があり、特に時給の高い人は長時間働けない」(勤続製品製造業)、「外国人研修制度を取り入れ、数年前より一定人員を確保しているが期間が短期のため大幅増員が難しい」(窯業・土石業)といった声が上がっています。
外国人労働者受け入れ拡大で社会保険制度はどう変わる?
◆治療のために来日する医療保険のただ乗り問題
日本の医療保険は「国民皆保険制度」といって、保険証があれば誰でも1~3割の自己負担で受診できる手厚い制度です。ところが昨今、留学や技能実習制度を利用して、治療のためだけに来日する外国人の問題が指摘されています。低額な自己負担で、がん治療など高額な保険給付を受けようというのです。また、国内に住む外国人労働者の保険証について、母国の家族が来日し、本人と偽って利用する「なりすまし受診」も報告されています。来年4月から外国人労働者の受け入れを拡大するなかで、こうした外国人の医療保険の不正利用をどうすべきかが議論されています。
◆医療保険で母国の家族を除外
現在、日本に住む外国人労働者が生計を支える3親等以内の親族については、日本に住んでいなくても扶養家族として扱われます。母国で医療機関を利用した場合でも、申請すれば、医療費は協会けんぽや健康保険組合など日本の医療保険者が負担します。
政府・自民党は、外国人労働者の受け入れ拡大にあたり、膨らむ医療費を考慮して、この仕組みを改める方針を固めました。日本で働く外国人が母国に残した家族について、日本の公的医療保険制度の適用対象から原則として除外するのです。ただ、外国人に対する差別的な取扱いにならないよう、日本人労働者の家族が生活拠点を海外に移して日本国内に生活実態がない場合、扶養家族から除外することも検討しています。
◆社会保険料を長期滞納する外国人の在留を認めない方針
また、政府は外国人労働者の受け入れ拡大で、国民健康保険や国民年金の滞納を警戒しています。保険に加入しないまま病院で受診し、医療費を踏み倒すなどの事態が想定されるためです。そのため、政府は社会保険料を長期滞納している外国人の在留を認めない方針を固めました。法務省と厚生労働省が保険料滞納に関する情報を共有するほか、法務省が在留を許可するにあたっての運用指針で、社会保険料をきちんと支払っていることを新たな要件として追加する方針です。
◆年金でも第3号被保険者に国内居住要件
政府は、年金についても医療保険と取扱いを合わせる必要があると判断しました。現在、厚生年金の加入者が扶養する配偶者(国民年金の第3号被保険者)は、自身が保険料を納めていなくても年金を受け取れますが、年金の受給資格を得るには国内の居住を要件とする方向で検討に入りました。2019年度中にも、国民年金法を改正する方針です。これにより、海外で生活する外国人労働者の配偶者には年金が支給されなくなりますが、日本人の従業員の配偶者が海外に住んでいる場合の対応が、検討課題になります。
来年4月から労働条件の通知がFAXやメールでも可能になります!
◆労働条件通知書がペーパレス化に!
厚生労働省は、現在、労働基準法第15条で定められている労働条件の「書面」での通知について、来年の4月1日からFAXや電子メール等でも可能にし、規制を緩和させることを決めました。書面として印刷できれば問題ないと判断したことによるもので、企業にとっては印刷や郵送にかかるコストや手間の削減ともなり、利便性が高まることが期待されます。
◆労基法施行規則を改正
具体的には、今年の9月7日に公布された働き方改革法関連法に基づく省令で、労働基準法施行規則第5条第4項に下記の下線部分が追加されました(2019年4月1日施行)。
【労働基準法施行規則第5条】
第4項 法第15条第1項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。
① ファクシミリを利用してする送信の方法
② 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信の送信の方法 (当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)
◆本人の希望が条件
今回の規制緩和は、労働者がFAXや電子メール等での通知を希望することが条件となっています。本人に通知方法を確認し、FAXや電子メール等での受取りを希望しない場合は、今までどおり書面で通知しなければなりません。
また、電子メールで送信する場合の具体的なファイル形式(メールの本文または一定形式の添付ファイルに限られるのか、どちらでもよいのか等)や、本人が確実に受け取ったかどうかの確認の要否などについては、現時点では明らかになっていません。施行までになんらかの基準が示される可能性もありますので、注意が必要です。
その不調、「冬うつ」かも……冬季のメンタルヘルスケア
◆「冬季うつ」をご存じですか?
うつ病にはさまざまな種類がありますが、季節性のうつ病もあることをご存じですか?
その1つ、「冬季うつ」は、その名のとおり、冬の期間(秋から春にかけて)にのみうつ病のような症状が出る病気です。主な症状はうつ病と同じですが、10時間以上寝ても眠くなる「過眠」、特に炭水化物や甘いものの「過食」といった、うつ病の場合(不眠・食欲不振)とは逆の症状も現れるため、うつとは自覚されにくいことも多いようです。毎年、冬にだけ強い疲労感や眠気があり、それが生活にも支障を来すようであれば、冬季うつになっている可能性がありますので、注意が必要です(抑うつ症状が2年以上続けて秋から冬に出現し、春になると軽快する、かつ、季節以外の明らかな原因が見当たらない場合に、冬季うつと診断されることになります)。
◆冬季うつの原因
冬季うつを発症する主な原因は、日照時間が短くなることです。光の刺激が減ると、脳内の神経伝達物質であるセロトニンが減少し、脳の活動が低下します。また、目に入る光の量が減ると、睡眠に深く関わるホルモンであるメラトニンの分泌のタイミングがずれたり分泌量が乱れたりして、体内時計が狂ってしまうといわれています。
◆職場でできる対策
冬季うつの特徴である、強い眠気は、仕事の上でのトラブルのもとにもなりかねず、企業としても対策が必要です。
日常生活の中で少し意識するだけで、冬季うつは予防・改善することができます。屋内で仕事をしている人は日照不足になりがちですから、休憩時間等には屋外や窓辺で日光を浴びるよう促しましょう。また、日光に限らず、照明の光を浴びるだけでも効果があるとされており、部屋を明るくするだけでも予防・改善につながりますので、オフィスの明るさをチェックしてみることも、有効な対策となります。
ビジネスの現場では、年末年始から3月の決算期にかけ、冬季は忙しい日が続く時期です。元気に乗り切ることができるよう、対策を講じていきましょう。