2023年10月

定期健康診断項目の見直しについて

 

どこの会社でも年に一度は定期健康診断が行われていることと思いますが、この健康診断について、厚生労働省が検査項目を見直すことを議論します。この秋から検討会を立ち上げて議論し、早ければ2025年度から検査項目を入れ替えて実施するとされています。

 

◆廃止または変更が指摘されている主な項目

○胸部X線検査

1972年に結核の発見を目的として始まりましたが、現在では結核は減っており、肺炎や肺がんを調べるためにやっています。しかし、X線検査による肺がんの発見は精度が低く、無駄ではないかといわれるようになりました。OECD(経済協力開発機構)も、2019年に「日本の健診は無駄な検査や不要なX線被ばくなどが生じている可能性がある」と指摘しています。胸部X線検査に代わる案としては、被ばく量の少ない胸部CT検査が挙げられており、しかもCT検査だとX線で見つけられないがんも見つけられるとのことです。

○心電図検査

年齢の高い方は不整脈や心筋梗塞の恐れがあるため心電図検査をやったほうがいいかもしれませんが、若い世代では異常が見つかるケースが非常に少ないそうです。今の健康診断はどの世代も同じ心電図検査をやっていますが、年齢を区切ってやったほうが良いといわれています。

○空腹時血糖検査

問題なのはどちらかというと食後の高血糖(隠れ糖尿病)で、放置すると脳卒中や心臓疾患にもなるので、食べた後の血糖値の状態がわかる検査もしたほうが良いといわれています。

 

◆加えた方が良いと指摘されている主な項目

○骨密度検査

骨粗鬆症になると寝たきりになって認知症にも影響するため、加えるべきだという声が多くあります。

○月経困難症や更年期障害など女性に特化した項目

「女性版骨太の方針2023」にも盛り込まれました。症状に個人差があることから、まずは医師の問診に追加する方法が有力です。いずれも重要な指摘なので、2025年度といわず速やかに実施してほしいですね。

【内閣府 規制改革推進会議「健康診断項目の合理化等について」】

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2210_03medical/230424/medical11_0102.pdf

 

 

入職と離職の状況と転職入職者が前職を辞めた理由

 

◆年間で常用労働者の15%が離職

人材不足のため採用に苦慮する企業も多いところですが、せっかく人を採っても、辞めていく人が減らなければ困難な状況が変わりません。

厚生労働省が公表した「令和4年雇用動向調査結果」によれば、令和4年1年間の離職者(事業所を退職したり、解雇された者)の数は約765万人となっています。また、年初の常用労働者数に対する割合である離職率は15.0%となっています。

 

◆転職入職者が前職を辞めた理由

また、同調査によれば、令和4年1年間の転職入職者が前職を辞めた理由については、男女ともに「その他の個人的理由」(男性19.6%、女性25.0%)、「その他の理由(出向等を含む)」(男性14.7%、女性8.6%)を除くと、「定年・契約期間の満了」(男性15.2%、女性10.9%)が最も多く、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」(男性9.1%、女性10.8%)、「職場の人間関係が好ましくなかった」(男性8.3%、女性10.4%)が続いています。

 

◆企業で可能な取組みを検討

上記調査でも「個人的理由」とありますが、辞める本当の理由を会社側に明確に伝える例は少ないのではないでしょうか。

エン・ジャパン株式会社が実施した「就業前後のギャップ」についてのアンケート調査によれば、約8割が、入社前後で「ギャップを感じた経験がある」と回答しており(トップ3は「仕事内容」「職場の雰囲気」「仕事量」)、55%がギャップにより仕事を辞めたことがあるそうです。その中でも「職場の雰囲気」は離職理由のトップとなっており、上記厚生労働省の調査の「職場の人間関係」による理由と重なるところがあります。

今後はそれぞれの企業で何が離職理由となっているのかを考え、企業として可能な取組みについても検討していく必要があるでしょう。

 

【厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果の概況」】

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/23-2/dl/gaikyou.pdf

【エン・ジャパン「就業前後のギャップ」調査『エン派遣』ユーザーアンケートー】

https://corp.en-japan.com/newsrelease/2023/34225.html

 

 

「心理的負荷による精神障害の認定基準」が改正されました

 

◆改正の背景

「心理的負荷による精神障害の認定基準」が改正され、令和5年9月1日に通知されました。精神障害・自殺事案については、これまで平成23年策定の「心理的負荷による精神障害の認定基準について」に基づき労災認定が行われていました。「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」(厚生労働省)は、社会情勢の変化等に鑑み、最新の医学的知見を踏まえて検討を行い、今年7月にその報告書が取りまとめられたことを受け、今回の改正となりました。

 

◆改正のポイント

認定基準改正のポイントとなるのは次の3点です。

① 業務による心理的負荷評価表(※)の見直し

・具体的出来事「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(いわゆるカスタマーハラスメント)を追加

・具体的出来事「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」を追加

・心理的負荷の強度が「強」「中」「弱」となる具体例を拡充(パワーハラスメントの6類型すべての具体例の明記等)

※実際に発生した業務による出来事を、同表に示す「具体的出来事」に当てはめ負荷(ストレス)の強さを評価

② 精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲を見直し

・悪化前おおむね6カ月以内に「特別な出来事」がない場合でも、「業務による強い心理的負荷」により悪化したときには、悪化した部分について業務起因性を認める

③ 医学意見の収集方法を効率化

・専門医3名の合議により決定していた事案について、特に困難なものを除き1名の意見で決定できるよう変更

 

労災事案を防ぐためにも、従業員の心理的負荷の軽減について検討していきましょう。

【厚生労働省「心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正しました」】

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34888.html

 

 

特定技能外国人の賃上げは届出不要に
 ――特定技能外国人受入れに関する運用要領の一部改正

 

出入国在留管理庁は、特定技能外国人の受入れに関する運用要領を一部改正し、特定技能外国人にとって有利な労働条件に変更する場合の届出を不要とする取扱いを開始しました。これまでは特定技能雇用契約書の賃金欄に変更が生じた場合は、賃金の引上げ・引下げのいずれの場合も原則として届出を必要としていました。

 

◆特定技能外国人にとって「利益となる内容へと変更の場合」は届出不要

従来の運用要領では、雇用契約書に記載された基本賃金の変更、手当の追加、新たに賞与を支給などの場合、「特定技能雇用契約の変更に係る届出書」に「雇用条件書」を添付書類として提出する必要がありましたが、これらの届出が不要となります。ただし、届出の有無にかかわらず、変更後の雇用条件書等については特定技能外国人が在籍する事業所において保管することが必要です。

一方、「基本賃金の減額」「諸手当の廃止」「昇給を「無」に変更」等、特定技能外国人にとって不利益となる内容へと変更があった場合には、従前どおり届出が必要となります。

 

◆随時届出に関する問い合わせの多い事項に回答

特定技能外国人の受入れ後、受入れ状況等については、出入国管理及び難民認定法に基づき、地方出入国在留管理局に届出を行わなければならないこととなっています。このうち、随時届出に関して問い合わせの多い事項について、届出書の記載方法、提出書類に関するものを中心にまとめたQ&Aが公表されました。

質問は、「1.全般事項」「2.特定技能雇用契約に係る届出」「3.支援計画の変更に係る届出」「4.支援委託契約の変更に係る届出」「5.受入れ困難に係る届出」「6.出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為(不正行為)に係る届出」にまとめられており、随時届出をする際の参考となります。

【出入国在留管理庁「特定技能雇用契約の変更届出が不要となる場合の取扱いについて」】

https://www.moj.go.jp/isa/content/001401874.pdf

【出入国在留管理庁「特定技能所属機関からの随時届出に関連してお問い合わせの多い事項について(Q&A)」】

https://www.moj.go.jp/isa/content/001386304.pdf