「地域別最低賃金」の引上げに伴う給与計算への影響は?
◆昨年度より25円高い848円
2017年度の地域別最低賃金については、8月中旬に各都道府県労働局に設置される地方最低賃金審議会の答申が出揃い、9月中旬には官報公示も出揃いました。今年度の全国加重平均額は848円で、昨年度に比べ25円の引上げとなりましたが、これは、昨年度に引き続き、現行制度が始まった2002年度以来最高の引上げ額です。
◆2023年度には1,000円まで引き上げられる!?
最低賃金は、近年引上げの流れが続いています。時給額のみで表示される現行制度が始まった2002年度には663円でしたが、昨年度に初めて800円を超えました。これは、政府が中期目標として全国加重平均で最低賃金1,000円を掲げ、毎年3%程度引き上げるとしていることによります。今年度の引上げ幅も3%となっており、このまま3%ずつ引き上げられると2023年度には1,000円に達しますが、中小・小規模事業者にとっては重い負担となります。
◆事業者を支援する助成金制度
最低賃金の引上げにより負担が増す中小・小規模事業者に対し、厚生労働省では、助成金による支援策を設けています。「業務改善助成金」は、事業場内最低賃金が1,000円未満の事業者を対象に、最低賃金を一定額以上引き上げた場合にかかった費用の一部を助成(上限200万円)する制度です。
◆発効による給与計算への影響
引上げ後の最低賃金は、都道府県労働局長の決定・公示により確定するため、発効日は都道府県によって異なり、今年度は9月末から10月中旬までに順次発効される見通しです。給与計算においては、発効日以降発生する賃金に引上げ後の最低賃金が適用されるため、賃金計算期間の途中に発効日がある場合は注意を要します。最低賃金での時給を適用している従業員がいる場合、賃金計算期間の途中で時給額が変更となるからです。この場合、発効日を含む月の賃金計算期間から前倒しで時給を引き上げることもできますし、据置きにして、引上げ後の差額を別途支給することもできます。
従業員が「iDeCo」に加入する際に事業主が行わなければならない事務手続とは?
◆改正を契機に加入者数が増加
今年1月からの改正確定拠出年金法の施行により、個人型確定拠出年金(通称:iDeCo)は、基本的に20歳以上60歳未満のすべての方が任意で加入できるようになりました。この改正により、今年に入ってから加入者が大幅に増加しており、平成29年6月時点における加入者数は54万9,943人(前年同期比203.8%)となっています。
◆iDeCoの仕組み
iDeCoは、公的年金に上乗せして給付を受ける私的年金の1つであり、加入者の老後の所得確保の一助となる制度です。加入者が自ら定めた掛金額を拠出・運用し、原則60歳以降に、掛金とその運用益の合計額をもとに給付額が決定し、給付を受ける仕組みとなっています。
◆事業主が行わなければならない事務手続は?
企業で働く従業員がiDeCoに加入する際、事業主が行わなければならない事務手続が発生しますが、そのポイントは以下(1)~(5)の通りです。厚生労働省では、従業員がiDeCoへの加入を希望した場合に速やかに加入できるよう、事業主への協力を呼びかけています。
(1) 事業所登録
加入者となる従業員(2号被保険者)を使用する事業所は、国民年金基金連合会(国基連)に事業所登録を行います。
(2) 事業主証明書の記入
加入を希望する従業員から提出される事業主証明書に必要事項を記入します。
(3) 事業主証明(年1回)
年に1回、国基連が加入申出時に得た情報をもとに、加入者の勤務先に資格の有無の確認を行いますが、その際に事業主の証明が必要となります。
(4) 事業主払込の場合の掛金納付
加入者が事業主払込を希望する場合、事業主から国基連に掛金を納付します。
(5) 年末調整
所得控除があるため、加入者が個人払込を選択した場合は年末調整を行います。
年金受給開始を70歳以後まで選択可能に ~政府有識者会議が提言
◆年内に「高齢社会対策大綱」策定
内閣府の「高齢社会対策の基本的考え方等に関する検討会」は、公的年金の受給開始年齢を70歳以降まで繰り下げることを可能とする仕組みづくりなどを盛り込んだ報告書の骨子案をまとめました。政府はこの骨子案をもとに、年内に中長期的な高齢者施策の指針となる「高齢社会対策大綱」の改定案を閣議決定する予定です。
◆「エイジレス社会」実現へ
年金の受給開始年齢は原則65歳ですが、現行法では60~70歳の間で開始年齢について、「繰上げ」もしくは「繰下げ」ができます。開始年齢を早めれば65歳から受給するのに比べて受給額が最大で30%減り、遅くすれば最大42%増えます。骨子案では、「基本的考え方」として、「すべての高齢者が意欲・能力を活かして活躍できるエイジレス社会を目指す」とし「年齢区分で人々のライフステージを画一化することを見直すことが必要」だとしました。そのうえで、「意欲ある高齢者が働き続けられ、また、就業できる仕組みを構築していくことが基本」とし、あわせて「高齢期の低所得を防止する視点も望まれる」としています。
◆高齢者のコミュニティづくりや資産活用も提言
骨子案ではこのほか、地域社会における高齢期の生活基盤を安定させるためのコミュニティづくりや、高齢者の資産を豊かな老後と日本の経済成長につなげる効率的な運用ができるよう環境整備が必要との報告も盛り込まれました。
◆導入の是非をめぐって議論本格化か
年金の受給開始年齢引上げをめぐっては、2014年に当時の田村憲久厚生労働大臣が「75歳程度まで引き上げることを検討する」と発言しましたが、その後具体的な議論とはなっていませんでした。ただ、少子高齢化で労働力人口が減るなか、政府は多くの高齢者に働き続けてもらいたい考えで、自民党の「一億総活躍推進本部」が5月にまとめた提言にも年齢引上げが盛り込まれています。今回は議論が本格化する可能性があり、導入の是非をめぐっては議論となりそうです。
職場のストレス調査結果にみる「相談対応」の重要性
◆「労働安全衛生調査」最新版を公表
厚生労働省は、事業所が行う労災防止活動や安全衛生教育について調査した「労働安全衛生調査(実態調査)」の平成28年の結果を公表しました。ここでは、調査結果から「職場のストレス」についてまとめてみます。
◆従業員は何にストレスを感じているのか
同調査によれば、「現在の自分の仕事や職業生活に関することで強いストレスと感じる事柄がある労働者」の割合は59.5%でした。この割合は平成25年以降、増加傾向にあります。具体的な強いストレスの内容(複数回答)では、「仕事の質・量」(53.8%)が最多で、「仕事の失敗、責任の発生」(38.5%)、「対人関係(ハラスメントを含む)」(30.5%)と続いています。
◆従業員の心の健康のための4つのケア
強いストレスによる労働者のメンタルヘルスの不調は、精神疾患の発症、パフォーマンスの低下をはじめ、様々なトラブルの要因となります。厚生労働省は、「労働者の心の健康の保持推進のための指針」において、メンタルヘルスケアの基本的な考え方として、以下の4つのケアが重要であるとしています。(1) セルフケア(従業員自らが行う、ストレスへの気づきと対応)
(2) ラインケア(管理監督者が行う、職場への改善と相談対応)
(3) 産業医・衛生管理者等によるケア
(4) 外部の機関・専門家によるケア
4つのケアのうち(2)が企業に求められるものになります。
「ストレスは従業員個人の問題」と矮小化することなく、現状の把握・改善や、従業員が相談しやすい環境づくりが大切です。
◆相談対応はストレス減に効果あり!
前述の調査では、誰かに相談したことでストレスが「解消された」という回答が31.7%、「解消されなかったが、気が楽になった」という回答が60.3%ありました。管理監督者や同僚が相談に応じるだけでも一定の効果があることがわかります。また、「対策の取組内容」(複数回答)として、35.5%の事業所が「相談体制の整備」を挙げています。年に1回のストレスチェック実施だけがメンタルヘルス対策ではありません。相談対応で従業員のストレスを上手に取り除き、健全な職場の環境を維持しましょう。