各種調査結果に見る「人材不足」の実態と対応策
◆雇用・労働分野の切実な問題
現在、「人材不足」は雇用・労働をめぐる最も切実な問題となっています。マスコミでもこの問題が頻繁に取り上げられており、「人材不足により倒産する中小企業も増え始めている」との報道もありました。特に、飲食サービス業や小売業、運送業等で状況が深刻であり、人材不足により社員の業務の負担が高まり、それがさらなる離職につながるといった悪循環も発生しています。
◆厳しい採用状況
実際、株式会社リクルートホールディングスの研究機関であるリクルートワークス研究所が行った「人手不足の影響と対策に関する調査」では、正社員やパート・アルバイトの採用を実施した企業のうち、3社に1社は必要な人数を確保できておらず、うち50%以上は事業に影響が出ているとの結果が出ています。さらに、人数を確保できない状況を解消できる見通しについて、人材不足に陥っている企業の52.7%が「見通しがない」と回答しており、今後ますます人材不足の悪影響が出てくることが懸念されます。
◆対応策は?
こうした状況を受けて、各社で人材を確保するための施策が行われています。多くの企業で実施されているのは、(1)採用対象の拡大(未経験者も採用対象とする、外国人を採用対象とする等)、(2)処遇の改善(賃金の引上げ、アルバイト・パートの正社員登用等)、(3)業務等の調整(業務の効率性の向上、外部人材の活用、アウトソーシング、受注調整、営業時間の調整等)です。検討したいのは、主婦や高齢者の活用でしょう。上記の調査によると、女性・高齢者を積極的に採用対象とする企業は約15%であり、その活用は進んでいないと考えられますが、株式会社リクルートジョブズの研究機関であるジョブズリサーチセンターが行った「主婦の就業に関する1万人調査」を見ると、M字カーブのボトムである「20~49歳の既婚・子供あり女性」について、就業意向がない人は8.2%にとどまっており、この層の活用が人材不足の解消につながることが大いに期待されます。
知っておきたい!「保健師」の必要性と活用法
◆「病気の予防」に関わる専門家
「保健師」という仕事をご存じですか?
保健師とは、保健師国家試験に合格して得られる国家資格(免許)であり、地区活動や健康教育・保健指導などを通じて疾病の予防や健康増進など公衆衛生活動を行う地域看護の専門家です。
看護師の仕事が「病気の治療に携わること」であるのに対して、保健師の主な仕事は「病気を未然に防ぐこと」であるのが大きな特徴です。
◆需要が拡大している「産業保健師」
保健師は、大きく、地域の住民に健康アドバイスを行う「地域の保健師」と、企業に在籍して従業員の健康管理を行う「産業保健師」に分けられます。今、この「産業保健師」の需要が拡大しています。産業保健師は、各種健康診断の企画実施を担うのはもちろん、従業員の健康上の悩みについての相談を受けるなど、産業医とも連携しながら従業員の健康管理を行う存在です。社員の働き方のモニタリング、健康状態と労働量の均衡の企図、異動に際しての産業医勧告の支援、労務費や福利厚生費の適切な運用のための支援、健康状態のデータの集計・分析・報告など、その活動内容は多岐にわたります。こうした活動を通じて労働者と企業の支援を行うのが、産業保健師の役割です。
◆産業保健師の活用事例
産業保健師は、上手に活用すれば企業の生産性向上・業績向上にもつながる存在です。例えば、社内の健康管理部門が機能不全に陥っているような企業では、保健師に関与してもらうことで、産業医と連携を取りながら業務改善を行ってもらうことが期待できます。従業員の働かせ方について、健康診断だけでなく、アフターケアを行うことも可能となります。これらを通じて従業員が健康で働き続けることのできる環境が整備され、いきいきと、モチベーションを持って働くことができるようになることで、企業はますます活性化します。保健師と企業をマッチングするサービスを提供する会社もあります。このようなサービスも利用しながら、一度、保健師の活用を検討してみてもよいかもしれません。
企業の暴力団排除の取組みと契約解除による訴訟リスク
◆「反社会勢力」排除意識の高まり
暴力団排除を進める警察関連団体に、企業からの照会が急増しているそうです。契約先が暴力団関係者とつながりがないかなどをチェックするためで、仮に暴力団関係者との取引が発覚すればトップの責任問題に発展するおそれもあることから、企業は必死のようです。
照会先の1つである警視庁の関連団体である「警視庁管内特殊暴力防止対策連合会」(東京・千代田区)は、約2,500社が加盟。組員や密接交際者、関連企業など約8万件のリストを保有し、「この人物と取引しても大丈夫か」といった会員企業からの問合せに回答しています。
昨年10月から今年8月までの照会件数は8,087件と前年同期と比べ49%増となっており、業種も金融業だけでなく、全業種で反暴力団排除の意識が強まっているようです。
同じく、警視庁の外郭団体である「暴力団追放運動促進都民センター」(東京・千代田区)でも照会が急増しているそうです。
◆情報提供には限界も!
警察が提供するのは原則、組員や脱退後5年以内の元組員の情報だけです。上記の照会先では、密接交際者、関連企業など、独自に収集した情報も提供しているそうです。ただ、企業の暴力団排除が厳しくなるにつれ、排除逃れの「偽装離脱」など、形だけ脱退して活動し続ける者も出てきているそうで、情報提供には限界があるというのが現状のようです。
◆契約解除で訴訟リスクも!?
大企業の多くは、取引先との契約には「暴力団排除条項」を入れるなどの対策をとっています。しかし、契約の相手方から、不当な契約解除だとして損害賠償請求訴訟を起こされると、暴力団排除条項違反を立証する責任は企業側にあります。警察からの情報で暴力団関係者であることが明白である場合などは問題ありませんが、密接交際者、関連企業などの情報は反論する際の証明力は弱いとの指摘もあり、法的なリスクを伴うケースも出てきます。このため、そのような際には、実際には代金の未払いや納期遅れなど他のことを理由にしたり、契約期間の満了時に取引を中止したりすることも選択肢に入れ、対応することになるようです。
放置していると危険!?“持ち帰り残業”で労災認定!企業も対策が必要に!
◆英会話学校講師の女性が自殺
2011年に英会話学校講師の女性が自殺したのは、自宅で長時間労働を行った「持ち帰り残業」が原因であったとして、金沢労働基準監督署が労災認定しました。持ち帰り残業については自宅での作業実態の把握が困難なため、労災認定されたのは異例のことのようです。ただ、本件では、メールや関係者の話から、女性は英単語を説明するイラストを描いた「単語カード」を業務命令により2,000枚以上自宅で作成しており、監督署は、実際に単語カードを作成して時間を計測し、自宅で月80時間程度の残業をしていたと結論付けました。これにより、会社での残業時間と合わせると恒常的に月100時間程度の時間外労働があり、さらに上司からの叱咤による心理的負担によりうつ病を発症したとして、労災を認定したというものです。
◆持ち帰り残業は労働時間に含まれる?
原則、会社が承認していない持ち帰り残業は労働時間には含まれません。労働者が自己の判断で仕事を持ち帰って自宅で残業している場合、会社はその実態を把握できないため、持ち帰り残業は基本的に会社の指揮命令下にないものとして労働時間であるとは判断しないのです。ただ、持ち帰り残業が上司の明確な指示に基づいて行われている場合は、それに要した時間は、当然に労働時間に含まれることになります。また、通常の労働時間では処理できないような業務量を指示していたり、持ち帰り残業を黙認したりしていた場合などは、事実上の指揮命令があったとして労働時間と判断される可能性があることに留意する必要があります。
◆企業には様々なリスクが!
持ち帰り残業は、労災認定される可能性や残業代を請求される可能性はもちろんですが、情報漏えいの危険性もあります。企業としては、「持ち帰り残業を原則禁止する」、「どうしても必要な場合は本人に事前申請させる」、「情報漏えい対策を講じる」などのルール作りが必要となるでしょう。