2015年9月号

平成27年度 最低賃金額引上げの目安と企業の対応
 ◆地域別最低賃金額改定の目安

地域別最低賃金額が10月から引上げとなる見込みです。引上げ額の目安については、都道府県の経済実態に応じ、次の通り提示されています。
・Aランク⇒19円(千葉・東京・神奈川・愛知・大阪)
・Bランク⇒18円(茨城・栃木・埼玉・富山・長野・静岡・三重・滋賀・京都・兵庫・広島)
・Cランク⇒16円(北海道・宮城・群馬・新潟・石川・福井・山梨・岐阜・奈良・和歌山・岡山・山口・香川・福岡)
・Dランク⇒16円(青森・岩手・秋田・山形・福島・鳥取・島根・徳島・愛媛・高知・佐賀・長崎・熊本・大分・宮崎・鹿児島・沖縄)

 ◆今後の流れ

現在、各地方最低賃金審議会で上記の目安を参考に調査審議が行われており、その答申を経て、各都道府県労働局長が地域別最低賃金を決定することとなります。もっとも、提示された目安と異なる地域別最低賃金額が定められた例は過去ほとんどなく、目安額通りに決定されるものと考えられます。

 ◆引上げ前のチェックが必要

最低賃金額に近い額で雇用契約を結んでいる従業員が多い事業場では、引上げ後の最低賃金額を上回る額が支払われているか、注意が必要です。時間給を計算してみると最低賃金額を割り込んでしまっているケースが、アルバイト・パートタイマーはもちろん、正社員の場合であっても散見されます。時給制の場合にはわかりやすいのですが、月給制や日給制の場合は、賃金額を労働時間数で割り戻して時間給を算出し、最低賃金額と比較してみてください。賃金額が最低賃金額を下回る場合には刑事罰が定められており(最低賃金法40条、50万円以下の罰金)、悪質な場合には書類送検の可能性もあります。「引上げにきちんと対応できていなかった」という“うっかりミス”が多い部分ですので、10月の引上げ前に、再度、最低賃金額関連の管理について見直しておきましょう。

 

「マイナンバー制度」雇用保険関係の最新情報!
 ◆厚労省から続々と情報が公表

8月に入り、厚生労働省から雇用保険関係のマイナンバー制度に関する情報が続々と公表されています。まず、8月3日に「概要リーフレット」と、事業主向けの詳細資料である「マイナンバー制度の導入に向けて(雇用保険業務)」が公表され、来年1月から使用するマイナンバー制度に対応した雇用保険関係の様式案(7月時点の改正案)も公開されました。さらに8月5日には「雇用保険業務等における社会保障・税番号制度への対応に係るQ&A」が公表されています。マイナンバー制度に関する同省関係の情報発信は、国税庁などに比べると遅れ気味ではありますが、ようやく出てきたといった感じです。なお、個人番号については厳重な管理が必要とされているため、同省ではできるだけ電子申請による届出を行うよう呼びかけています。

 ◆「Q&A」の内容

以下では、上記「Q&A」の内容からいくつかご紹介します(全体版は『厚生労働省 マイナンバー制度 雇用保険関係』で検索してご覧ください)。
Q7 「離職票-1」は事業主が個人番号を記載して離職者に交付するのか。(答)「離職票-1」の個人番号欄は離職者が記載することとしており、事業主はハローワークから交付された「離職票-1」(個人番号欄は空欄)を離職者に交付していただくこととなります。

Q9 雇用保険手続について、手続の契機ごとに同一従業員の個人番号を重複して提出することになるのか。
(答)個人番号のハローワークへの届出にあたっては、事業主が従業員から個人番号を収集する際に本人確認を行った上で提出することからハローワークでは本人確認等の事務は行わないこととなりますが、仮に、個人番号が誤って登録された場合には、その後の事務処理に多大な影響を生じることとなることから、手続頻度の高い届出について、届出の契機ごとに、個人番号を記入して提出することとしています。

Q11 従業員から個人番号の提供を拒否された場合、雇用保険手続についてどのような取扱いとなるのか。
(答)雇用保険手続の届出にあたって個人番号を記載することは、事業主においては法令で定められた(努力)義務であることをご理解いただいた上で、従業員から個人番号の提供を求めることとなりますが、仮に提供を拒否された場合には、個人番号欄を空白の状態で雇用保険手続の届出をしていただくこととなります。その上で、再度、従業員から個人番号の提供を求めた上で、個人番号の提供があった場合には、所定の様式により提出していただくこととしています。

 

残業時間削減効果の高い企業における取組みとは?
◆7割以上の企業で1カ月当たり45時間超の所定外労働

独立行政法人労働政策研究・研修機構(以下、「LIJPT」)が従業員数100人以上の企業2,412社から回答を得た調査の結果、過去1年間における1カ月当たり所定外労働時間は平均24.5時間でした。過去1年間に1カ月当たり45時間超の所定外労働を行った正社員が1人でもいた企業の割合は76.5%で、60時間超が61.4%、80時間超が39.9%でした。1カ月当たりの所定外労働時間が45、60、80時間を超えた正社員がいた割合が高かった業種は、「建設業」「製造業」「情報通信業」「運輸業、郵便業」「学術研究、専門・技術サービス業」でした。

 ◆約半数の企業が年間総実労働時間を「短縮していく」と回答

上記の現状を受け、年間総実労働時間の今後の方向性について尋ねると、「現状通りで良い」との回答が49.2%、「短縮していく」との回答が45.7%でした。

◆残業時間削減を経営戦略に位置付けるのが効果的

エン・ジャパンが2014年7月から8月にかけて行った調査では、「業務分担やフローの見直し」、「管理職への教育」、「残業の事前申請制」の3つが、実施効果のあった取組内容となっていました。今回の調査でも、効果があった上位3つは「経営トップからの呼び掛けや経営戦略化による意識啓発」、「所定外労働の事前届出制の導入」、「仕事の内容・分担の見直し」で、経営戦略として残業削減に取り組むことが効果的であると言えます。

 ◆残業時間削減に効果的な取組みとは?

なお、JILPTの調査結果では、実施企業で所定外労働時間の短縮効果が高かったのは、「強制消灯、PCの一斉電源オフ」、「経営トップからの呼び掛けや経営戦略化による意識啓発」、「社内放送等による就業の呼び掛け」、「労働時間管理や健康確保に係る管理職向けの研修・意識啓発」などの取組みとなっています。残業削減に取り組んでいるものの満足な効果が得られていないという場合、上記のような取組みの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

 

 運用次第で給付額が変動可能に!「第3の企業年金」とは?
 ◆来年度から導入か?

厚生労働省は、新しい企業年金制度を創設することを明らかにし、制度設計の検討に入りました。今後、企業年金の関連政令を改定し、早ければ来年度にも企業が導入できるように議論が進められています。現在の企業年金は、「確定給付型」と「確定拠出型」の2種類ですが、双方の特徴を併せ持つ「第3の企業年金」として新たな企業年金制度が設けられることになります。

◆制度の特徴は?

確定給付型年金は、企業が掛金を負担して運用するため、従業員にとってはメリットの多い制度ですが、企業の負担が大きく制度を辞める企業が増えています。企業の負担を和らげるために2001年に導入された確定拠出型年金は、加入者が自分で運用するため、個人のリスクが大きいとされています。今回検討されている「第3の企業年金」では、運用は確定給付型のように企業が行いますが、年金額は確定拠出型のように変動することになります。つまり、加入者は運用リスクを引き受けることになりますが、個人で運用する必要はなくなります。

 ◆企業への影響は?

現在、勤務先で企業年金に加入している人は約1,700万人(2014年3月時点)で、これは会社員の約40%強が加入していることになります。最近では、確定給付型の厚生年金基金からの脱退や基金の廃止が相次いでいるため、「第3の企業年金」の創設により、多くの企業が企業年金制度を見直すことが予想されます。各企業年金制度のメリット・デメリットをよく理解し、身の丈に合った制度を導入・運用していくことが必要です。今後の動向に注目していきましょう。