「民間企業の勤務条件制度等調査」の結果にみる休暇制度の状況
◆休暇等関する基礎資料
「民間企業の勤務条件制度等調査」は、人事院が、国家公務員の勤務条件等を検討するにあたっての基礎資料を得ることを目的として、民間企業の労働時間、休業・休暇、福利厚生および災害補償法定外給付等の諸制度を調査するものです。
今回は、平成29年9月28日に公表された平成28年分の調査結果から、休暇制度に関するものを見てみましょう。なお、常勤従業員数50人以上の全国の7,355社を対象として行われました(調査に適格な4,438社について集計。内容は平成28年10月1日現在におけるもの)。
◆失効年次有給休暇の積立制度
失効した年次有給休暇を積み立てて使用することができる制度がある企業は、正社員に関して制度がある企業で平均29.6%となっています。規模別では、従業員500人以上の企業では54.6%、100人以上500人未満では31.0%、50人以上100人未満では19.2です。
一方、有期雇用従業員(労働時間が正社員の4分の3を超える従業員。以下同様)に関して制度がある企業で平均12.1%となっており、正社員に対するものと比較して導入率は低くなっています。
また、正社員に失効した年次有給休暇を積み立てて使用することのできる制度がある企業の中で、積立年休に使用事由の制限がある企業は74.9%となっています。こちらは、規模の大きい企業ほど制限のある場合が多く、500人以上規模では91.8%、50人以上100人未満では55.9%です。制限事由別の割合(平均)としては、私傷病(96.4%)、介護(58.3%)、看護(46.2)、その他(39.7)などで、だいたいどの企業規模でも制限事由の設定については、同じような割合となっています。
◆有期雇用従業員の年次有給休暇以外の休暇
年次有給休暇および失効年次有給休暇の積立制度の制度とは別に、有期雇用従業員に対する休暇制度についても調査されており、次のようになっています(平均値)。
・私傷病休暇がある企業…21.1%
・夏季休暇がある企業…31.9%
・結婚休暇がある企業…57.1%
・有給の子の看護休暇がある企業…19.8%
・有給の介護休暇がある企業…18.3%
人材確保策として有効? 今どきの「社員寮・社宅」事情
◆ねらいは優秀な人材の確保
今、社員寮や社宅を復活させたり充実させたりする企業が相次いでいるようです。福利厚生の充実ぶりをアピールすることで、優秀な人材を確保したいという企業側のねらいが背景にあるようです。
◆今どきの社員寮・社宅
これまでも、企業は採用状況が厳しくなると社員寮の充実に力を入れる傾向がありましたが、昔のような相部屋では、今どきの若者には敬遠されてしまいます。そのため、家賃が安く、なおかつ“プライバシーが確保されつつも、入居者同士が適度に付き合える”環境を整備した社員寮が人気のようです。
◆社員寮・社宅の効用
人材確保という面では、社員寮に入居すれば社員の親にも安心してもらえるので、採用活動にプラスになるというメリットがあります。また、食事の提供などによって社員の健康対策・メンタル対策としての役割や、災害時には社員の安全を守り、業務の早期復旧を目指すという目的もあるようです(実際、社員寮に非常食や発電機、防災井戸を備えている所もあるそうです)。他にも、自社の社員だけでなく、複数の企業の社員が共同で暮らす社員寮も出てきており、会社の枠を超えての交流ができると人気のようです。このように、社員寮は人材の確保・離職防止に役立つだけでなく、共同生活によって社員同士のコミュニケーションが増えることで連帯感が生まれたり、職場の活性化にもつながったりすることから、会社だけでなく社員の側からもその重要性が見直されているようです。社員寮・社宅は、運営コストかかり業務が煩雑であるため、企業にはそれなりの負担がかかりますが、それ以上の効用が会社・従業員双方に期待できそうです。
◆社宅がある企業の割合
人事院が行った「平成28年 民間企業の勤務条件制度等調査」の結果によると、常時従業員数50人以上の全国の企業4,438社のうち、社宅を有する企業の割合は46.8%となっています。また、保有形態別(社宅を有する企業を100とした場合)でみると、自社保有社宅を有する企業の割合は31.2%、借上げ社宅を有する企業の割合は92.2%となっています(複数回答)。
有給休暇取得に関する動向とキッズウィークへの対応
◆10月は取得促進期間
厚生労働省は10月を「年次有給休暇取得促進期間」とし、広報活動を行っています。企業において、翌年度の年次有給休暇の計画づくりを行う時期が10月とされているためです。ここでは、有給休暇に関する動向をお伝えします。
◆有給休暇取得の現状
現状として、わが国の有給休暇の取得の状況は低水準にあります。厚生労働省の「就労条件総合調査」によると、有給休暇の取得率はこの15年間、ずっと50%弱で停滞し続けています。一方で政府は、2020年までに有給取得率を70%以上まで引き上げることを目標として掲げています(内閣府「第4次男女共同参画基本計画」)。また、有給休暇の平均取得日数でみると、最新(2015年)の平均取得日数は8.8日です(パートタイム労働者を除いた労働者の平均値)。意外に多い結果とも感じられますが、その実態は、特定企業に勤務する取得日数の多い労働者が平均値を押し上げているだけであり、大半の労働者は有給休暇をほとんど取得できていないということは、現場に近しい方なら実感としておわかりではないでしょうか。
◆労働基準法改正で義務化も
法整備も進んでいます。9月に厚労省が公表した「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」では、労働基準法の改正案として、使用者は、年次有給休暇が10日以上付与される労働者に対し、そのうちの5日を、時季を指定して与えるよう義務化することが盛り込まれています。法案の内容にて改正法が成立すれば、企業は対応を迫られることとなります。
◆キッズウィークの影響と企業対応
また、来年からは、「キッズウィーク」(地域ごとに夏休みなどの一部を他の日に移して学校休業日を分散化する取組み)がいよいよスタートします。これにより、小・中学校に通う子どもを扶養する従業員が、学校の日程に合わせて会社を休まざるを得なくなり、有給休暇の取得する、ということも増えそうです。企業の対応策としては、例えば、「年次有給休暇の計画的付与制度」の活用などが考えられます。自社の現状に照らしあわせ、年次有給休暇の無理のない計画づくりを行いたいものです。
「過重労働解消キャンペーン」が11月に実施されます!
◆「過重労働解消キャンペーン」とは?
長時間労働対策の強化が喫緊の課題となっている中、厚生労働省では「過労死等防止啓発月間」の一環として「過重労働解消キャンペーン」を11月に実施し、長時間労働の削減等の過重労働解消に向けた取組みを推進するため、使用者団体・労働組合への協力要請、リーフレットの配布などによる周知・啓発等の取組みを集中的に行うそうです。実施期間は11月1日~30日となっています。
◆主な実施内容
(1)労使の主体的な取組の促進
使用者団体や労働組合に対し、長時間労働削減に向けた取組みに関する周知・啓発等について、厚生労働大臣名による協力要請が行われ、労使の主体的な取組みが促されます。また、都道府県労働局においても同様の取組みが行われます。
(2)労働局長によるベストプラクティス企業への職場訪問
都道府県労働局長が長時間労働削減に向けた積極的な取組みを行っている「ベストプラクティス企業」を訪問し、取組事例をホームページなどで地域に紹介します。
(3)過重労働が行われている事業場などへの重点監督
<監督の対象となる事業場等>
・長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場等
・労働基準監督署およびハローワークに寄せられた相談等から、離職率が極端に高いなど若者の「使い捨て」が疑われる企業等
<重点的に確認される事項>
・時間外・休日労働が「時間外・休日労働に関する協定届」(いわゆる36協定)の範囲内であるか(法違反が認められた場合は是正指導)
・賃金不払残業が行われていないか(法違反が認められた場合は是正指導)
・不適切な労働時間管理については、労働時間を適正に把握するよう指導
・長時間労働者に対しては、医師による面接指導等、健康確保措置が確実に講じられるよう指導
<書類送検>
・重大・悪質な違反が確認された場合は、送検、公表
(4)電話相談の実施
都道府県労働局の担当者による、フリーダイヤルでの相談、助言、指導が行われます。
(5)キャンペーンの趣旨などについて周知・啓発
(6)過重労働解消のためのセミナー開催
全国で合計66 回、「過重労働解消のためのセミナー」が開催されます(参加無料)。