海外赴任の際の情報収集、新型肺炎
◆日本から世界へ
最近では、中小企業でも海外(いわゆる発展途上国など)に活路を求めて担当者を配置する動きが広がっているようです。中国が発生源とされる新型コロナウイルスによる肺炎が世界的な問題となっていますが、そうした新種のものでなくても、海外赴任者にとって脅威になるものはいくつもあります。日本では過去のものと考えがちな、結核、狂犬病、赤痢なども途上国では普通に発生しています。
海外赴任者に対して注意したいことは、大きく医療、メンタルヘルス、感染症です。ケガや病気の時に治療してもらえる医療機関がそもそもあるのか(受診してよい医療レベル・衛生レベルなのか)、インフラの未整備、日本本社の現地に対する過剰な期待・無知からくるストレス、様々な感染症への対策など、会社としての情報収集は重要です。
渡航先の病気・医療情報などについて調べるには、外務省(世界の医療事情)や厚生労働省検疫所(FORTH)、アメリカCDC(Travelers’ Health)のサイトなどが参考になります。
◆世界から日本へ
外国人社員を雇用する場合も注意が必要です。例えば、入管法改正により外国人労働者は来日前に母国での結核検査が義務付けられていますが、検査漏れの可能性は残ります。咳が長引くような場合は受診の手配が必要でしょう。通常の健診やストレスチェックについても、英語対応可能な医療機関に依頼できると安心でしょう。
◆新型肺炎
今回の新型肺炎は、感染症法上の指定感染症(第2類)に指定されました。第2類とは感染力や危険性の度合が上から2番目(SARSやMERSと同等)となり、症状のある人に対して保健所による入院勧告や就業制限が強制的に行えるようになります。さらに、検疫法上の検疫感染症にも指定され、感染の疑いのある人に対して、空港などの検疫所で健康状態に関する質問や検査を行ったりすることができるようになります。この質問に対して嘘を言ったりすると、罰則(6月以下の懲役または50万円以下の罰金)の対象になります。政令改正で、2月14日からは症状のない感染者に対しても隔離などが可能となりました。
会社単独での対策はなかなか難しいですが、労務管理上は、咳やくしゃみをしている社員には飛沫感染防止のためマスク着用を徹底させる、従業員の免疫力を下げないために過労につながる長時間残業を減らす、テレワークの導入を検討するといった対応が考えられます。また、コンサートや祭り、スポーツ関連の行事・催し物などで特定の地域に多くの人が集まるイベント(マスギャザリング)などでの感染拡大が懸念されますので、そうした危険性に対する情報提供の必要もあるでしょう。
4月までに対応しましょう!「身元保証書」を求める際の留意点
◆2020年度の身元保証契約は要注意
素性や経歴を保証するとともに、従業員が会社に何らかの損害を与えた場合に連帯して賠償してもらうため、入社時には身元保証人を立ててもらっている、という会社は多いのではないでしょうか。そのような会社では、この春、「身元保証書」の見直しが必要です。
2020年4月より、「個人保証人の保護の強化」を目的として、極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約は無効とされます(改正民法465条の2)。入社時の身元保証契約は、従業員が会社に損害を与えた場合に本人と連帯してその賠償を行うという連帯保証契約であり、保証人にとっては、従業員が、いつ、どのような責任を負うのかを予測することができないことから根保証契約に当たります。そのため、身元保証契約を締結する際には、賠償の上限(極度額)を定めておかなければなりません。
◆極度額の定め方
極度額の定め方については、例えば次のように、これまでの身元保証書に極度額を追加することが考えられます。
「同人の身元を保証し、同人が貴社に損害を与えた場合、貴社が被った損害を賠償する旨確約します(極度額○○○○円)。」
なお、実務上は、「極度額をいくらにするか」が問題となります。損害に対するリスクヘッジという観点からは、あまりに低額とすると実効性がなくなりますし、一方であまりに高額としてしまうと、連帯保証人が躊躇する等で手続きが進まないおそれもあります。
具体的に金額を明記する(「極度額は1千万円とする。」など)のがベストですが、例えば「極度額は従業員の月給の○○か月分とする。」などと定めることも考えられます。
◆「身元保証契約」締結の見直しも……
身元保証を求める会社は多いですが、実質的に形骸化しているケースも多くあります。対応を求められていることを機に、会社にとって身元保証契約を結ぶことが本当に必要であるのか、再検討してみましょう。
時間外労働上限規制2020年4月から中小企業も適用に
◆4月から中小企業も適用に
「働き方改革」の下、昨年4月から大企業を対象に時間外労働の上限規制が始まりました。時間外労働の削減については多くのメディアでも取り上げられてきており、各企業で多様な取組みがなされているところですが、いよいよ今年の4月から中小企業も規制の対象となります。
中小企業で猶予されていた月60時間を超える時間外労働の法定割増賃金率50%以上の規定についても、2023年から適用が始まりますので、長時間労働が常態化している会社において、残業時間削減の取組みは、経営上無視できない問題となっています。
◆労働時間は減少傾向に
実際、労働時間自体は全体的に減少傾向にあるようです。直近の厚生労働省が2月に公表した毎月勤労統計調査令和元年分(速報)によると、労働時間(1人平均)は総実労働時間 139.1 時間と前年比2.2%減となったそうです(うち、所定内労働時間は128.5 時間(同2.2%減)、所定外労働時間は10.6 時間(同1.9%減))。どの程度実態が伴っているものなのかはわかりませんが、残業時間の上限に法的規制が加えられたことから、各企業で時間外労働等の削減に向けた取組みが進められていることは確かでしょう。
◆残業時間削減の取組み
残業時間削減の取組みとしては、「年次有給休暇取得促進の取組」、「従業員間の労働時間の平準化を実施」、「残業を事前に承認する制度の導入」、「従業員の能力開発の実施や自己啓発の支援」、「IT環境の整備」など様々なものがあります。厚生労働省では、現在、中小企業の事業主に向けて「働き方改革」の特設サイトを設けており、残業削減等の取組み事例や関連の助成金の情報をまとめて紹介しています。各企業で時間外労働の原因や適切な対策は異なりますが、自社の現況を踏まえて対応可能なところから始めてみてはいかがでしょうか。
【厚生労働省「働き方改革特設サイト」】
https://www.mhlw.go.jp/hatarakikata/index.html
子の看護休暇・介護休暇~時間単位での取得が可能に
◆施行は2021年1月
「病院に寄ってから出勤したいけれど、半日の休みは必要ない……」「急な迎え要請で少しだけ早く帰りたい……」、そんな育児や介護を行う労働者が子の看護休暇や介護休暇を柔軟に取得できるよう、育児・介護休業法施行規則等が改正され、時間単位で取得できるようになりました。改正のポイントは以下のとおりで、施行は2021年1月からです。
改正前 ・半日単位での取得が可能
・1日の所定労働時間が4時間以下の労働者は取得できない
↓
改正後 ・時間単位での取得が可能
・すべての労働者が取得できる
◆制度導入におけるポイント(厚労省Q&Aより)
―「分」単位で看護・介護休暇を取得できる制度を既に導入している場合は、法を上回る内容になっているため、別途、時間単位で取得できる制度を設ける必要はない。
―時間単位での看護・介護休暇を取得する場合の「時間」は、「1日の所定労働時間数未満の時間」とし、1日の所定労働時間数と同じ時間数の看護・介護休暇を取得する場合には、日単位での看護・介護休暇の取得として取り扱う。
―「中抜け」による時間単位での取得を既に認めている場合、法を上回る望ましい取扱いであるため、改正後に「中抜け」を想定しない制度に変更する必要はない。
―フレックスタイム制度のような柔軟な労働時間制度が適用される労働者であっても、申出があった場合には、時間単位で看護・介護休暇を取得できるようにしなければならない。
―労働者にとって不利益な労働条件の変更になる場合は、労働契約法の規定により原則として労使間の合意が必要になる。
―制度の弾力的な利用が可能となるよう配慮することが求められる。
◆就業規則や社内規程の見直しも必要に
来年の施行までに、就業規則や社内規程の見直し・修正が必要になってきます。また、業務内容によっては、時間単位での休暇取得が難しい労働者がいます。その場合は、労使協定を締結することにより、その業務に従事する労働者を除外することができます。
その他に、本制度を導入し、要件を満たした事業主には、「両立支援等助成金」が支給されますので、情報収集をしておくとよいでしょう。