ストレスチェックの実施義務が50人未満事業場にも拡大へ
◆来年通常国会に改正法案提出予定
11月6日に開催された労働政策審議会安全衛生分科会に、50人未満事業場へのストレスチェック実施を義務化する案が示され、概ね了承されました。今後は厚生労働省が報告書をまとめ、来年の通常国会に労働安全衛生法の改正法案が提出される見通しとなっています。
精神障害の労災支給決定件数が、ストレスチェック制度の創設された2014年に比べ約2倍に増えている一方、50人未満事業場ではメンタルヘルス対策に取り組む事業場の割合が低い(令和5年労働安全衛生調査による)ことから、実施義務の範囲が拡大されることとなりました。
◆実施負担に配慮した施策が講じられる
案では、実施結果の監督署への報告義務は課さない、また、50人以上の事業場における実施内容を一律に求めることは困難として、国が現実的で実効性のある実施体制・実施方法についてのマニュアルを作成する、との方向性が示されています。このほか、支援体制の整備等のため、施行までに十分な準備期間を設けるともされています。
ちなみに、制度創設当時のスケジュールでは、改正法公布(2014年6月25日)から施行(2015年12月1日)を経て、1年以内(2016年11月30日まで)に第1回目を実施することとされました。
◆「集団分析・職場環境改善」は努力義務
ストレスチェック制度では、集団分析を実施し、その結果を勘案して「当該集団の労働者の心理的な負担を軽減するための適切な措置を講ずる」努力義務も課されていますが、50人以上の事業場も含めて、「義務とすることは時期尚早」とされたため、義務化は見送られました。
【厚生労働省「第170回労働政策審議会安全衛生分科会(資料)」】
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44958.html
「就活セクハラ」防止義務化に向けた動き
◆「就活セクハラ」とは
「就活セクハラ」とは、従業員間ではなく、就職活動中の学生に対して採用担当者等により行われるセクシャル・ハラスメントを指し、問題視されています。これまで、大企業を中心として、性被害などの深刻な事案も発生しており、自主的な指針を作る企業もみられます。
◆およそ3割の就活生が体験
厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和5年度)によると、「インターンシップ中に就活等セクハラを一度以上受けた」と回答した人の割合は30.1%(「インターンシップ以外の就職活動」は31.9%)で、セクハラの内容としては「性的な冗談やからかい」「食事やデートへの執拗な誘い」「不必要な身体への接触」といったものが挙げられました。
◆防止へ法制化の動き
男女雇用機会均等法では、企業に対し、窓口の設置や加害者への対処など、従業員へのセクハラ防止が義務付けられていますが、現状その対象に就活生や応募者は含まれておらず、指針において就活ハラスメント防止措置が望ましい取組みとして明記されるに留まっています。
こうした状況を受け、厚生労働省の審議会では、企業に対する就活セクハラ防止義務化が検討されており(面接・インターンシップの際のルール策定や相談窓口の設置などを求める案が示されています)、2025年通常国会への関連法案提出を目指すとされています。今後の政府の動向が注目されます。
就活セクハラは、現時点では企業に防止義務はないとはいえ、倫理的にあってはならないことです。また、万が一起こってしまった際は、企業のイメージ棄損などにつながります。企業の責務を果たすと同時に、人材の安定した確保を行っていくためにも、就活生や応募者へのセクハラ防止に努めていくことが重要です。
【厚生労働省「『職場のハラスメントに関する実態調査』の報告書を公表します」】
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40277.html
【厚生労働省「就活ハラスメント防止対策 企業事例集」】
https://www.mhlw.go.jp/content/11910000/001065368.pdf
マイナ保険証の利用登録の解除について
◆マイナ保険証の登録は解除できる
12月2日に迫った現行の健康保険証の廃止とマイナ保険証への一本化に伴い、マイナンバーカードを取得していない方やマイナンバーカードを健康保険証として利用する登録をしていない方などには、保険者から資格確認書が交付され、それを医療機関に提示することにより、これまでと同様に保険医療が受けられます。
そして、いったんマイナンバーカードに健康保険証の情報をひも付けた後で、情報漏洩が不安などの理由により、その登録を解除した方にも資格確認書が交付されます。
当初、マイナ保険証の登録は原則として解除できないことになっていましたが、2023年に政府は、利用登録自体が任意で行われることなどを踏まえ、登録後の解除を認めることに方針変更しました。
◆マイナ保険証の登録解除の流れ
その後、厚生労働省は、2024年10月に「マイナ保険証の利用登録解除の運用について」という保険者向けの通知を出し、10月28日から医療保険者等向け中間サーバーで保険者からの解除申請の登録を受け付けるので、保険者にも加入者からの解除申請の受付を開始するよう求めました。皆さんの所属する保険者のホームページに告知が出ているか確認してみましょう。
マイナ保険証の利用登録解除の全体の流れは、次のとおりです。
(1) 加入者からの利用登録の解除申請の受付(加入者)
(2) 解除申請者に対する資格確認書の交付(保険者)
(3) 中間サーバーへの解除申請者の情報の登録(保険者)
(4) 解除申請者の解除状況の確認(保険者)
(1)の解除申請の受付は、加入者が申請書を保険者から取り寄せ、書面で保険者に提出します。(2)の資格確認書の交付は、12月2日以降、利用登録の解除がなされるまでの間に行います。なお、現行の健康保険証は最長で令和7年12月1日まで使えるため、保険者は、その有効期限が切れる前に資格確認書を交付すれば良いとされています。会社の担当者の方は、資格確認書の交付が事業主を通して行われるのかを保険者に確認すると良いでしょう。
(3)で保険者は、中間サーバーで解除依頼の登録をし、国はその翌月に登録を解除します。(4)で保険者は、月次で各保険者に通知されるマイナ保険証の利用登録状況を確認します。
【厚生労働省「マイナ保険証の利用登録解除の運用について」】
https://www.mhlw.go.jp/content/10200000/001317966.pdf
企業の「賃金のデジタル払い」対応状況~帝国データバンクの調査結果より
◆PayPayで給与受取りが可能に
8月にキャッシュレス決済サービス「PayPay」が、賃金のデジタル払いの取扱事業者(資金移動業者)第1号として厚生労働省から指定を受けました。9月にはソフトバンクグループ各社が希望する社員に対し、給与をPayPayで支払いました。
そこで、帝国データバンクは、企業における賃金デジタル払いへの対応についてアンケートを実施し、調査結果を公表しました(アンケートの実施期間は2024年10月4日~10日、有効回答企業数は1,479社)。
◆約9割の企業が「導入予定なし」
アンケートの調査結果のポイントは、以下のとおりです。
・賃金のデジタル払いの「導入に前向き」な企業は3.9%、88.8%は「導入予定はない」
・導入に前向きな理由は、「振込手数料の削減」(53.8%)、「従業員の満足度向上」(42.3%)、日払いや前払いのしやすさなどの「事務手続きの削減」(32.7%)
・導入予定がない理由は、デジタル払いと口座振込の二重運用や労使協定の改定などによる「業務負担の増加」(61.8%)、「制度やサービスに対する理解が十分でない」(45.0%)、「セキュリティ上のリスクを懸念」(43.3%)
◆「賃金のデジタル払い」は普及するのか
PayPayでの賃金のデジタル払いは、ソフトバンクグループ以外にオービック、サカイ引越センター、ニチガス(日本瓦斯)グループで導入が開始(予定)されています。現状では、企業は賃金のデジタル払いの導入に対して、利便性やセキュリティへの懸念、業務への負担増などにより消極的ですが、今後、PayPay以外の取扱事業者が参入し、保証体制や安全性等が強化されれば普及していくでしょう。
【株式会社帝国データバンク「企業の「賃金のデジタル払い」対応状況アンケート」】
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20241016_digitalsalary/